ひとくち書評33
『「激安」のからくり』(金子哲雄/中公新書ラクレ)
激安商品の“安さの理由”を追究し、消費者の賢いつきあい方を提案する。
「安い」はなぜ成立しているのかを、考えてみてほしいのです。
なにか理由があるはずです。
どうしてこれほど安くできるのだろうか、
と疑問に思うことがスタートです。
「安さ」の謎解きをしているうちに、
現代社会のさまざまな問題が見えてきます。
で、見えてきた問題にたいする対抗策、
たとえば激安商品にこんな注意書きをつけたらどうか。
「この商品を買いすぎると、
あなたの国で失業を招くおそれがあります」
ハンバーガーやスーツ、パソコンが激安で作れる理由を解説した
第1章だけでも読む価値あり。
『「実は、人前が苦手」な大人のための話し方』(後藤武士/幻冬舎文庫)
ベストセラー「読むだけですっきりわかる」シリーズの著者に
よる話し方の指南書、文庫書き下ろしで。
生まれつき、話し上手な人、下手な人がいます。
しかし、いくら「話し下手」であっても、
ちょっとしたコツをツカムだけで、
そこそこうまく話せるようになります。
[中略]
誰でも、その日から、簡単に、すぐに、使える
具体的な手法をたくさん紹介させていただいてます。
本書の要旨を「はじめに」から抜き書きするとこうなろうか。
「ちょいナツ」「足の裏から膝まで」「自己紹介のアイロニー」
「だから型となんで型」「シュコンのリズムとグッチュのリズム」など、
印象に残るキーワードで話し方の具体的な手法、
“正真正銘の私の秘策”が公開されている。
たとえば、「ご出身はどちらですか」「自慢じゃありませんが」は
NGフレーズ。ではどのように言えばよいか...は本書にて。
私は今でもどんな場合においても、
人前で話す三日くらい前からシミュレーションを繰り返しています。
百戦錬磨のカリスマ講師にしてこのような努力を怠らないとすれば、
いわんや凡夫においてをや。
『編集者の仕事』(柴田光滋/新潮新書)
新潮社のベテラン編集者による「本」の本、
副題に「本の魂は細部に宿る」とある。
──いったい原稿はどんな具合にして本という形に仕立てられるのか。
単行本、それも文字を主体にした単行本を中心にして、
長く勤めた新潮社での体験を通し、編集者の仕事の
あれこれについてお話ししていきたいと思っています。
本はモノである──。
巷間話題の電子書籍もなんのその、このひとことに撃たれてしまった。
そうなんだよなぁ、紙質、サイズ、書体、色、手触り、重さ、におい、
スピン、ジャケット...すべてをひっくるめて「本」なんだよなぁ。
その「本」を創り出すプロセスを、編集者の仕事という窓からのぞいて
書き記した本。「『本』好き」にはたまらない情報がつまっている。
たとえば、四六版という呼称の由来、
新潮新書が1行39字になった理由、
本文に写真を組み込む場合の基本的な位置、
活字サイズの「ポイント」をミリに換算すると、などなど、
へぇボタンがいくつあっても足りやしない。
著者(テキスト)と編集者(本)との境界について、
ここ[目次]は著者の頁ではなく、あくまで編集者の頁なのです。
[奥付は]著者の頁ではなく、出版社の頁。
こう言い切るところにクリエイターとしての気概すら感じてしまう。
あらためて、とどめの一文。
本とはモノなのです。
『子どもを英語嫌いにしない11の法則』(安河内哲也/学研新書)
偏差値大幅アップ、人気の英語講師による英語教育論を書き下ろしで。
本書では、あらゆるご家庭で実践できる、子どもを英語嫌いにせず、
英語を身に付けさせる方法をご紹介します。
大手予備校のテレビCMで、
「英語なんて言葉なんだ。こんなものやれば誰だってできるようになる!」
と熱く語っている先生の新著。
「二十歳で英検1級」を目標とし、それにむけたステップを解説する。
どれほどの英語至上論かと思って読んでみると...。
幼児期から小学校にかけては、
子どもとたくさん日本語でおしゃべりしてください。
日本語の本をたくさん読み聞かせてください。
おや?
母語となる日本語は知的能力の土台となります。
思考力は母語によって形成されます。
つまり、いろいろな教科の成績も日本語力=国語が基本になります。
もちろん英語力の土台も日本語です。
母語における読解力や語彙力や会話力などの言語能力を、
第二言語がこえることは、よほどのことがない限りありえません。
おやおや?
この調子で読み進むと、小学校英語の位置づけ、
オールイングリッシュの授業の評価、
オーラルと文法のバランスについて、
考え方がかなり近いことがわかってくる。
英語の授業をすべて英語で行うということに、
私は疑問を感じています。[中略]
すべての授業を英語だけにしてしまうと、
大変に非効率的なやり方で英語を学ばせることになると思うのです。
とにかく英語をたくさん聞けば自然と英語力が身に付くという
「幻想」から、オールイングリッシュの授業がよいという発想に
なるのかもしれませんが、
ただ聞いているだけでは英語力はなかなか身に付きません。
オーラル重視、文法軽視のカリキュラムにも疑問を呈し、
四技能のバランスと文法学習についてこう述べる。
本格的に英語学習が始まる中学生以降は、
四技能をバランスよく学習させることに心を配りましょう。
といっても別に難しいことではありません。
英語を勉強する時に、
「読む、書く、聞く、話す」のすべてをまとめてやればいいのです。
私が声を大にして言いたいのは
「第二外国語を学ぶなら、文法を学ぶことは不可欠だ」
ということです。[中略]
「読む、書く、聞く、話す」の四技能すべてにおいて、
文法知識は不可欠です。
予備校=こてこての英語漬け、という思い込みは偏見だった。
こんな先生に英語を習えたら、「二十歳で英検1級」も夢じゃない。
具体的な練習法は本書にゆずることにして、
正道を行く英語教育論をどうぞ。
『命を救う「ふれあい囲碁」』(安田泰敏/生活人新書)
囲碁の安田九段が普及に力を入れている「ふれあい囲碁」、感動の記録。
「中学生自殺」のニュースを耳にした安田九段。
自分に何かできないだろうか?
そうだ、囲碁を通して孤立して苦しんでいる子とつながろう!
そして、多くの人に伝え、向かい合う切っ掛けにしてもらおう。
天啓を受けて行動を開始。
囲碁をアレンジした「ふれあい囲碁」を考案し、全国に広めていく。
「囲碁」ではなく「ふれあい囲碁」。なぜ「ふれあい」がつくのか?
幼稚園の先生方は、ゲームとしての囲碁では無く、
囲碁を触れ合いの道具として、子どもたちに伝えたのです。
「ふれあい囲碁」を通して心を開き通わせていく子どもたち、
教師、保護者、地域の人たちの姿が、本書にはあふれるほど紹介されている。
“命を救う”囲碁という表現、大げさではない。
たとえば、院内学級を訪問して仲良くなった男の子が
糖尿病の女の子を励まして言ったことば。
「お姉ちゃん、同じ生きるなら、笑って生きようよ」
あるいは、知的障碍のある男性が
対戦相手に石を取られるように打っているのを見て、
「思いやりとは、何かをしてあげるということでは無く、
相手が喜んでいる姿を見て、自分も嬉しくなること……。」
小学生も中学生も高校生も、皆が望んでいるのは、
「自分の傍にいてほしい」
「自分の話を聞いてほしい」
「自分のことを見守ってほしい」
ということなのです。
普段の休み時間に子どもと遊んでいる先生のクラスは、
生徒も先生も目が生き生きしています。
問題が起きてからではなく、普段の生活が大事なのです。
評論家でなく行動者の目で書かれていることばだからこその重みを感じる。
普及活動の過程で実践的に会得する子どもたちとの距離の縮め方、
つながりのつけ方、ルールの説明のしかたが絶妙で、おおいに参考になる。
まず、子どもたちに声を出させる。そして、笑わせることでした。
一つ目は、基本だけを教えて技術は教えない。
二つ目は、一方的な説明をしない。三つ目は、参加させる。
「幼児はまず視覚で理解し、体験して言葉を獲得していく。」
という体験から得られた原理によって導き出された原則は、
どこの教室でも通用するはず。
「ふれあい囲碁」のルールについては、本書ではわからないところがある。
他の文献を参照されたし。
『コミュニケーション力を高める文章の技術』(芦永奈雄/フォレスト出版)
「作文指導のカリスマ」による大人のための文章講座!(帯のコピー)
どうすれば、伝えたいことをうまく伝えられるようになるのか?
どうすれば、文章が得意になり、愉しみながら書けるようになるのか?
その具体的な方法と説明を、次の章からお話ししていくことにしましょう。
日本の学校教育の最大の弊害だと思うのですが、
学校でテーマを持つことを学ばせません。
型どおりのことを覚えさせて、それができるようになることが「勉強」。
『賛美歌にあった「君が代」』(石丸新/新教出版社)
1903年の明治版『讃美歌』が「君が代」入りで発行され
その後も当然のように受け継がれたこと、
「稜威(みいつ)」のような問題語が1954年版『讃美歌』でも
使われていたこと、などを資料によってたどる。
それぞれの地域、あるいは置かれた状況により違いがあるが、
戦時下の教会が礼拝式の中で「君が代」をうたった事実を
忘れてはならないし、あいまいにしてもならない。
[54年版『讃美歌』の]問題は、明治期以来、学校教育と世間一般で
用いられていた天皇制用語・皇室用語・国家神道用語を、
畏れ敬うべき独一の神について用いる場合に、
十分かつ批判的な吟味を経なかったことにある。
戦後日本は、ずっと戦後日本であってほしい。
戦前日本となってはならない。
鉛筆を握る子どもの手に銃を持たせるようなことにしてはならない。
『読むだけですっきりわかる世界史 古代編』『同 中世編』
(後藤武士/宝島SUGOI文庫)
既刊5冊で220万部を誇る「読むだけですっきりわかる」シリーズの
最新刊は世界史4部作の前半2冊、
古代編「ピラミッドから「三国志」まで」、
中世編「イスラーム教の誕生からジャンヌ=ダルクまで」。
縦に数千年、横に西洋から東洋までの広大な地域、
という縦横2本の軸がある科目「世界史」の学び方について、
著者はこう述べる。
大まかには地域ごとに縦の歴史をたどって、
横がリンクするところに関してはその都度同時代の他地域の様子を
確認していけば問題はない。
[中略]もちろんこの本では、横を見比べなければならないときには
そのことに触れるから安心してね。(『古代編』)
語り口調でとっつきやすく、必要に応じて脱線しながら
世界の歴史を概観できる。
巻末の王朝年代対照表と語句索引を味方につければこわいものなし。
世界史学習では避けて通れない宗教の解説も
過不足のない穏当な記述でわかりやすい。
中世ヨーロッパの農民一揆と中国の王朝末期の反乱との類似性に
言及したところでは、ワット=タイラーの乱の指導者の言葉
「アダムが耕しイヴが紡いだとき、誰が貴族であったか」から
陳勝・呉広の乱の陳勝の言葉「王侯将相いずくんぞ種あらんや」を
思い起こさせ、こう語る。
洋の東西を問わず、人間が考えることには共通性があるもの。
[中略]こんな具合に似ているところを見つけたり、
思わぬところと思わぬところが予想外につながったりするのが
世界史の醍醐味だね。(『中世編』)
世界史をこれから学ぶ人にも、
改めて学び直したい人にも、
もちろん受験生にも、
そしてかつて中公文庫『世界の歴史 全16巻』に挫折した人にも
おすすめの世界史入門書...高3のムスメに読ませよう。
『明日へのかけ橋』(小澤優子/教文館)
「シスター山路のお話から考えたこと」という副題のついた教育エッセイ。
「シスター山路」は鎌倉にあるカトリック系の私立清泉小学校の元校長。
著者がシスターからおりに触れて聞いた話を数ページにまとめ、
それを敷衍した著者のエッセイをくわえる、という構成の全23話。
たとえば、シスターは1年生が入学してすぐ、
母親たちにこんな話をするという。
「[略]あなたがこの子をほんとうに幸福な子にしてくれると思って、
神様があなたにこの子をお授けになった。それをご存じですか[略]。
この子を幸福にするかしないかは、誰かがするのではなく、
あなたがするのです。[略]」
あるいは、シスターは小学1年から3年までが大切だと考え、
こんなことにこだわった教育をする。
この時期の子供たちには、いわゆる勉強を詰めこむよりゆっくりと
「一番大事なこと」を教えることにしている。
一年のときは、たった一行の文字を書いてくる宿題をさせる。
丁寧に文字を書くことから心をこめることを教える。
言葉づかいやお辞儀の仕方、人に物を差し出すときはこのように
ということも教える。
私立公立、カトリックプロテスタント無宗教関係なく、
どこを読んでもしみじみと心に響く教育の真理がしずかに語られている。
著者の夫は俳優の故小澤栄太郎。
それにしても、いい学校だなぁとつくづく思う。




